1 はじめに
○本来、学習とは自立的なものであり、「教える」と「学ぶ」の関係は別個に存在するもの。
「教えた」からといって相手が「学」とは限らないし、「学んだ」からといって「教えた」人がいたとは限らない。
○自ら学ぶ姿勢を持つことは個人の動機づけによる。
動機づけは学習の必要性を目覚めさせるための契機となる。
○平均寿命が延びた現在でも、人は6歳から長くても22歳までに勉強することを終え、残りの約50年余りの歳月は、教育を受ける機会を持たないことになる。
○生涯教育という概念は、「教育は人生の初期、学校だけ行われるものでない」という考え方から始まる。
2 生涯教育論の流れ
(1)1965年12月 ポール・ラングラン
ユネスコ成人教育第3回成人教育推進国際委員会において生涯教育を提唱。
従来の学校教育という概念の改革を考え、教育体系の改善を期待してこの言葉を用いた。
(2)1976年10月 フランク・W・ジェサップ
人間は生まれてから死ぬまで学校だけではなくあらゆる場所で学習すべきであると提言。
Lifelong Integrated Education (縦の統合・横の統合)
(3)1996年4月、ユネスコの21世紀教育国際委員会は、「学習:秘められた宝」という報告書を発表。21世紀の教育のキーワードとして生涯学習を設定。
@知ることを学ぶ(Learning to know)
A行うことを学ぶ(Learning to do)
B共に生きることを学ぶ(Learning to live together with others)
C人間としていきることを学ぶ(Learning to be)
社会の急激な変貌は、知識の絶え間なき更新を必要とし、人々の価値観も変化してきているので、人生の初期における学校教育とそのあとの継続教育とを伝統的に区分することは困難。
時間(学習年齢)と空間(学習場所)を超えた生涯学習という理念は新しい概念。
(4)我が国の生涯学習
@昭和40年 波多野 完治 生涯教育
A昭和56年6月 生涯教育について(中央教育審議会)
B昭和59年〜62年 臨時教育審議会の答申において「生涯学習体系への移行」
C平成2年1月 生涯学習の基盤整備について(中央教育審議会)
D平成3年4月 新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について(中央教育審議会)
生涯学習における学校の役割
人々の生涯学習の基礎を培うためには、特に初等中等教育の段階において、生涯にわたって学習を続けていくために必要な基礎的な能力や自ら学ぶ意欲や態度を育成することが重要。
教育内容を精選して基礎・基本を徹底させるとともに、新しい知識を学んだり発見したりすることの楽しさを体験させることが必要。
E平成2年6月 文部省に生涯学習局を設置
F平成2年8月 「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」制定
G平成2年8月 生涯学習審議会の発足
H平成4年7月 「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」
当面重点を置いて取り組むべき事項
ボランティア活動の支援・推進
青少年の学校外活動の充実
I平成8年4月 「地域における生涯学習機会の充実方策について」
J平成8年7月 「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(中央教育審議会)
・教育における「不易」と「流行」を十分に見極めつつ、子どもたちの教育を進めていく必要がある。
・知識の陳腐化が早まり、学校時代に獲得した知識を大事に保持していれば済むということはもはや許されず、不断にリフレッシュすることが求められるようになっている。
・いかに社会が変化しようと、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性。たくましく生きる健康や体力。「生きる力」
K平成10年7月 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について (教育課程審議会)
L平成10年9月 「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」
M平成11年6月 「生活体験・自然体験が日本の子どもの心をはぐくむ」
生活体験が豊富な子どもほど、道徳観・正義感が充実
・お手伝いをする子どもほど、道徳観・正義感が充実
・自然体験が豊富な子どもほど、道徳観・正義感が充実
N平成11年6月 「学習の成果を幅広く生かす」
・学習機会の拡充と学習に対する支援の充実
・ボランティア活動の推進
・生涯学習による地域社会の活性化の推進など
O平成12年11月 「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について」
P平成13年1月 文部省生涯学習局を文部科学省生涯学習政策局として再編強化
生涯学習審議会を中央教育審議会生涯学習分科会として再編
3 生涯学習の意義について
○自由時間の過ごし方
休養、娯楽、趣味、スポーツなどに使っている
○ギリシア時代の哲学者アリストテレス
@体の休息(アヒパシウス)
A心の休息(パイデア)
B自己実現(スコレー)に使うべきであると述べている。
○アメリカの心理学者マズロー
「人間はよく生きようとする存在」 マズローの5段階欲求階層
自己実現欲求
集団への帰属欲求
愛情欲求
安全・安定欲求
生存欲求
4 生涯学習の目的
(1)教養・生活充足型(カルチュア・センター型)
興味・関心や生活に必要な知識・技術を得るための学習
(2)資格取得型
実社会に出てから、本人の意志あるいは必要性からの学歴や資格を得るための学習
(3)専門職充実型(職業能力を高める)
専門職に従事する人が、その職務を全うするために継続的に行う学習
・教師の教材研究
5 生涯学習社会における学校の役割
学校とくに義務教育段階である小・中学校は、人の生涯を時系列にみた場合、生涯学習の基礎づくりをする場である。
(1)生涯学習の基礎つくりの場としての学校
○自己教育力の育成
@学ぶ意欲を持つ(学ぶ楽しさと意味を知る)
A学ぶための方法を修得する
B自分の目で見、自分の頭で考え、自分の心で感じ、自分で意志決定し、自分の意見を自分の言葉で述べる
C他者の意見を聞いて理解し、討議し、考えを深めることのできる人間を育成する。
(2)ミニ学習社会化
○学校自体をミニ社会化した学習の展開
○ミニ図書館構想 図書室利用
○ミニ博物館構想 資料室や実験室の利用
○ミニ公民館構想 余裕教室や実習室の利用
(3)生涯学習機関としての学校
○学校開放
○校庭や体育館等の施設の開放
○ミニ公開講座の開設
(4)学社連携 学社融合
○家庭と学校の連携
○学校と社会教育の連携
○社会教育施設の利用
○地域の教育資源や地域の人材活用
(5)生涯学習の基礎をつくる学校の具体的展開例
@生涯学習の基礎つくり
・学習習慣を育てる。 ・観察力を伸ばす。 ・教師と子どもの信頼関係を深める。
※生涯学習基礎つくりは教師の役割である。
A学校中心の教育観の変容
B学校教育と社会教育の連携
・公民館講座「家庭教育学級」等の講師
C社会教育施設を活用した学校教育活動
・青少年自然の家を利用した学校教育活動
・博物館等を利用した学校教育活動
・地域の人材等を活用した学校教育活動
D学校利用の法的根拠
地方自治法238条の4・4(行政財産の管理及び処分)
学校施設の確保に関する政令3条(学校施設の使用禁止)
学校教育法85条(学校施設の社会教育等への利用)
社会教育法43条(適用範囲)
同44条(学校施設の利用)
同45条(学校施設利用の許可)
同46条(行政財産の処分等)
同47条(使用許可の委任)
同48条(社会教育講座)
スポーツ振興法13条(学校施設の利用)
E校務分掌への生涯学習推進主任の位置付け
6 おわりに
○知能の発達
結晶性知能・・・乳幼児期から青年期まで急速に発達し、加齢によっても変化なし
流動性知能・・・乳幼児期から青年期まで急速に発達するが、加齢とともに衰える。
常に、新しい技術・知識を覚えることに挑戦することが呆け防止につながる。
○「ありちゃんのホームページ」
ありちゃんのホームページへようこそ! このホームページでは、旅行や植木などについて体験談を交えて紹介しています。 庭いじり ご意見・ご感想をお待ちしております。
http://www16.plala.or.jp/ari62man
○ラ・フォンティーヌの寓話
「農夫と子どもたち」
骨折って働くがいい。 それがなによりまちがいのない元手。
ある富裕な農夫は、死が近いことをさとって、子どもたちを呼び寄せ、ほかに人がいないところで語った。
「ご先祖さまが残してくれた土地を売るようなことはせぬがよい。宝が隠してあるのだ。場所はどこか、わしは知らぬ。だがすこし根気よくやってみればみつかるだろう。探しだせるだろう。取り入れがすんだらすぐに、畠の土をひっくりかえせ。掘り返し、鋤きかえし、深く掘りおこして、どこもかしこもなんべんも、あたってみるのだ。」
父親は死ぬ。
子どもたちは畠をひっくりかえしてみる。あちらこちら、いたるところを、丹念に。
そこで、一年後には、畠は例年より豊かな収入をもたらした。
隠し金はなかったが、父親は賢明にも、死に先立って息子たちに教えたのだ。
労働は宝であることを。
○『エミール』から
「世の中には自分の子どもを保護することばかり考えているものがあるが、それでは十分とはいえない。だんだん成長していけば、自分で自分を保護するように育てなければならない。どんな運命に痛めつけられようとも、どんな貧乏にも耐えてゆける、必要とあればアイスランドの氷の中でも、あるいはマルタ島の焼けつくような岩の上でも、それに耐えてゆけるような人間に育てなければならない。」
「生きるということは、ただ息をすることではなくて活動することである。・・・・・最も長生きした人というのは、最も長い年月を生き延びた人ということではなくて、最も強く生命を感じとった人のことである。世の中には100年も長生きをして葬られた人もいるが、それだけでは生まれてすぐ死んだ人と同じではないか。」
○佐藤一斎「言志四録」
少而学 則壮而有為(少にして学べば、すなわち壮にして為すあり)
壮而学 則老而不衰(壮にして学べば、すなわち老いて衰えず)
老而学 則死而不朽(老いて学べば、すなわち死して朽ちず)
○福沢諭吉 「学問のススメ」
いろは四十七文字を習い、手紙の文言、帳合の仕方、算盤の稽古、天秤の取扱い等を心得、なおまた進んで学ぶべき箇条は甚だ多し。
○島津日新斉
「古しへの 道を聞きても 唱えても 我が行いに せずばかひなし
○武者小路実篤 「桃栗3年、柿8年、達磨は9年、おれは一生」
「学校を核とした地域創生」へ戻る